歯根の発生
歯根の形態の決定は環境因子より遺伝要因の方が大きいと云われています。
遺伝要因の影響を受けていることは、幾つかの遺伝性疾患の歯根形態を見るとわかります。長胴歯(タウロドント)はX染色体異常と関連して高頻度にみられ、イギリスで行った家系調査で親子間での歯根の類似点が多く認められ、遺伝していることが示されました。原因遺伝子が解明されている歯根異常では象牙質形成不全症があります。これはDSPP遺伝子(象牙質タンパクを作る情報を持つ遺伝子)の突然変異によって引き起こされます。
現在、歯根形成に関与する遺伝子はTGFB1,BMPs,FGFs,Notch,Timp,Msx1,Msx2,Runx2などが分かっています。
癒合根(複数の歯根がまとまった状態の歯根)の遺伝要因
ヒトの歯の退化的現象は、小さい歯冠、単根化(癒合根を含む)傾向と考えられています。この退化傾向は、下顎第二大臼歯に多く見られ、頻度は日本人で約30%、欧州系で23%。この人種差から遺伝的要因の関与が示唆されるが分子遺伝学的メカニズムは未知であります。
歯根の長さの遺伝要因
マウスを使った実験から歯根の長さが遺伝していることが示唆されています。歯根長と歯冠幅径には相関はないが、顎骨の大きさとは相関があります。歯根長と顎骨は同じ遺伝子群が関与している可能性が高く、ヒトの歯根長も遺伝的要因を強く受けていると考えられるが、実験マウスより多くの環境要因にさらされているため、遺伝要因と環境要因のどちらに、影響力があるのかは未知であると思われます。
再生治療に向けて
歯根形成の遺伝子レベルの研究は歯冠形成のそれと比べるとかなり遅れています。
IPS細胞を利用した歯の再生研究では、歯冠形成に関しては現実味が出てきたが、歯周組織を含めた歯根再生は現状出来ていません。よって「噛むことの出来る歯」はまだ先の話になりそうです。
今後、歯根の形態形成の研究が進めば、完全な歯の再生へ向けて前進できるかもしれません。
2017.09.25 広瀬 俊